ネットで読める新編武蔵風土記稿
『新編武蔵風土記稿』は江戸幕府の昌平坂学問所が編纂した官撰地誌で、文政13年(1830)に完成しました。将軍献上本は焼失しましたが、同じ内容の浄書本が現在は国立公文書館の内閣文庫に収蔵されています。近世後期の武蔵国各地を調べるうえで欠かせない史料ですが、一部で写本が出回る程度で一般の人の目に触れることはまれでした。
しかし、明治17年(1884)に内務省地理局から活字翻刻本が刊行され、広く存在が知られることになり、武蔵国内の地方史研究の基本史料として活用されています。
内務省本の刊行は画期的なものでしたが、同本には誤読・誤植が多いとの指摘もあります。また、浄書本の絵図・挿絵を内務省本では銅版・木版で刊行したので、原図とはかなり異なっています。
今回、国立公文書館のデジタルアーカイブで浄書本が公開されましたので、既刊本との比較検討ができるように、各本のリンク集を作りました。
なお、武蔵国のうち「御府内」と呼ばれた江戸城・江戸市中については収録されていません。これらの地域については文政12年に完成した『御府内備考』に収録されています。
武蔵国(むさしのくに)
首巻〜巻之8
現在の範囲:埼玉県・東京都・神奈川県の川崎市・横浜市
豊島郡(としまぐん)
巻之9〜巻之19
現在の範囲:東京都新宿区・文京区・台東区・渋谷区・豊島区・板橋区・北区・荒川区の全域、港区・練馬区の一部
葛飾郡(かつしかぐん)
巻之20〜巻之38
現在の範囲:東京都葛飾区・江戸川区・墨田区・江東区・埼玉県三郷市・吉川市・栗橋町の全域、幸手市・杉戸町・鷲宮町の大部分、春日部市・松伏町の一部
荏原郡(えばらぐん)
巻之39〜巻之57
現在の範囲:東京都目黒区・品川区・大田区の全域、港区・世田谷区の一部
橘樹郡(たちばなぐん)
巻之58〜巻之72
現在の範囲:横浜市鶴見区・神奈川区の全域、川崎市川崎区・幸区・中原区・高津区・宮前区・多摩区の全域、横浜市港北区・保土ケ谷区の大部分、横浜市西区の北西部、川崎市麻生区の一部
久良岐郡(くらきぐん)
巻之73〜巻之80
現在の範囲:横浜市中区・南区・磯子区・金沢区の全域、西区の南東部、港南区の東部
都筑郡(つづきぐん)
巻之81〜巻之88
現在の範囲:横浜市緑区・青葉区・都筑区・旭区の全域、川崎市麻生区の大部分、横浜市保土ヶ谷区・港北区の一部
多磨郡(たまぐん)
巻之89〜巻之128
現在の範囲:東京都三多摩地域・中野区・杉並区の全域、世田谷区・練馬区の一部
新座郡(にいくらぐん)
巻之129〜巻之134
現在の範囲:埼玉県和光市・朝霞市・新座市の全域、志木市・東京都練馬区・西東京市の一部
足立郡(あだちぐん)
巻之135〜巻之155
現在の範囲:東京都足立区・埼玉県川口市・鳩ヶ谷市・蕨市・戸田市・上尾市・桶川市・北本市・伊奈町の全域、さいたま市・草加市・鴻巣市の大部分
入間郡(いるまぐん)
巻之156〜巻之175
現在の範囲:埼玉県所沢市・ふじみ野市・富士見市・三芳町・毛呂山町の全域、川越市・狭山市・入間市・坂戸市・越生町の大部分、日高市・志木市・鶴ヶ島市・東京都瑞穂町の一部
高麗郡(こまぐん)
巻之176〜巻之185
現在の範囲:埼玉県鶴ヶ島市・日高市の大部分、飯能市の東部、川越市・狭山市・入間市・坂戸市の一部
比企郡(ひきぐん)
巻之186〜巻之195
現在の範囲:埼玉県東松山市・川島町・滑川町・嵐山町の全域、鳩山町・小川町・ときがわ町の大部分、川越市・越生町の一部
横見郡(よこみぐん)
巻之196〜巻之198
現在の範囲:埼玉県吉見町の全域
埼玉郡(さいたまぐん)
巻之199〜巻之218
現在の範囲:埼玉県八潮市・越谷市・蓮田市・久喜市・加須市・羽生市・行田市・宮代町・白岡町・菖蒲町・騎西町・大利根町の全域、春日部市・北川辺町の大部分、草加市・さいたま市・鴻巣市・熊谷市・鷲宮町の一部
大里郡(おおさとぐん)
巻之219〜巻之221
現在の範囲:埼玉県熊谷市の南部
男衾郡(おぶすまぐん)
巻之222〜巻之225
現在の範囲:埼玉県寄居町の大部分、深谷市・熊谷市・小川町の一部
幡羅郡(はらぐん)
巻之226〜巻之229
現在の範囲:埼玉県熊谷市の北部、深谷市の一部
榛沢郡(はんざわぐん)
巻之230〜巻之234
現在の範囲:埼玉県深谷市の大部分、本庄市・寄居町の一部
那賀郡(なかぐん)
巻之235〜巻之237
現在の範囲:埼玉県美里町の大部分、本庄市の一部
児玉郡(こだまぐん)
巻之238〜巻之242
現在の範囲:埼玉県本庄市・神川町の大部分、美里町の一部
賀美郡(かみぐん)
巻之243〜巻之245
現在の範囲:埼玉県上里町の全域、神川町の一部
秩父郡(ちちぶぐん)
巻之246〜巻之265
現在の範囲:埼玉県秩父市・横瀬町・小鹿野町・皆野町・長瀞町・東秩父村の全域、飯能市の西部、ときがわ町・寄居町・神川町の一部
附録 編輯姓氏(ふろく へんしゅうせいし)
『新編武蔵風土記稿』の編纂に従事した、昌平坂学問所地誌調所役人と八王子千人同心の名簿。
凡例
ここでは、諸本の比較検討のため、以下の5種のリンク先をまとめています。
(国立公文書館)浄書本
国立公文書館内閣文庫所蔵。全255冊。将軍献上本と同一の完成本。
(国立公文書館)明治写本
国立公文書館内閣文庫所蔵。252冊。明治時代の写本。
(国立公文書館)明治活版本
国立公文書館内閣文庫所蔵。80冊。活版。和装本。明治17年、内務省地理局によって刊行され、広く活用されるきっかけとなりました。
(国会図書館)明治活版本
国立国会図書館所蔵。上記の地理局本と同一の物だが、数冊ごとに合冊しているので、全部で40冊。国立国会図書館のデジタルアーカイブはページ毎にリンクを張れるので参考として掲載しました。
(国会図書館)大日本地誌大系本
雄山閣が昭和9年〜10年に刊行。全12巻。
参考文献
- 埼玉県立歴史と民俗の博物館.博物館ブックレット『新編武蔵風土記稿』の世界(2013)
- 地誌#22 新編武蔵風土記稿(神奈川県立図書館)