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健康で長生きできる睡眠法
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なお、翻刻文は こちら です。
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これは夜寝る時の心得を詳しくあらわす所なり。この法を守れば無病長寿疑いなし。
(1)○凡(およ)そ、人臥(ふ)す時は身を峙(そば)だて、膝を屈(かが)むるによろし。必ず人の心気を益(ま)すといえり。身をそばだつことは、俗に言う横寝(よこね)の事なり。
※横寝=顔を横に向けて寝ること。
(2)○睡りさめる時は舒(の)びをするによろし、精神散する事なし。
(3)○人舒(の)びて臥(ふ)す時は、陰邪(いんじゃ)を招き引て、邪魅(じゃみ)内に入りて害をなすなり。故に孔子の寝る時は舒びずと宣(のたま)うは、これを言う事なり。
(4)○人皆暮(くれ)に臥(ふ)す時、常に習うて口を閉じて臥すべし。口を開けば必らず気を失す。且又(かつまた)、邪気口より入りて病をなすものなり。又云う、人臥(ふ)して一夜の内常に五度ずつ反覆(ねがえり)すべし。五更(ごこう)の移りに遂(したが)いて身を転ぜよと言えり。
※五更=一夜を初更(甲夜)・二更(乙夜)・三更(丙夜)・四更(丁夜)・五更(戊夜)に五等分した呼び方。
(5)○無病の人、夜寝る事あたわざるは、衾(やぐ)厚くして熱気内に壅(ふさが)る故なり。如此(かくのごとく)なる時、急にこれを去りて汗を拭(ぬぐ)い、あるいは、衾を薄くする時は、寒気すなわち加わりて、睡る事おのずから緩(ゆる)やかなり。また曰(いわ)く、空腹(すきはら)にして眠られざる時は、少し食事をなして臥(ふ)すべきなり。飽食(ぼうしょく)して寝苦しきは、茶を飲み、あるいは、少(すこ)しく歩行して臥すべきなり。かつ枕元に燈燭(ありあけ)を置くべからず。神気(しんき)を安んぜずと云う。
(6)○常に臥(ふ)す時、仰ぎ臥して手を以て胸の上に覆うべからず。かくのごとくすれば、必らずおそわれて、睡(ねむ)る事を得ずとなり。
(7)○暗(くら)がりに臥(ふ)して、もしおそわるる事ある時は、俄(にわか)に燭火(ともしび)を持ち行くべからず。また、その人に近づきて急に呼び起こすことなかれ。但し、胸の上なる手を総(おさ)め下ろして、ゆるゆると呼び起こすべきなり。
(8)○凡(およ)そ人昼寝をすべからず。人おして元気を減らし散らすなり。
(9)○寝る時、面(おもて)を壁に向かう者は陰(いん)に属す。元気の衰えたるが故(ゆえ)なり。又面を外に向かうて臥す者は陽に属す、元気実(じつ)するが故なり。
(10)○人臥(ふ)して安(やす)く睡(ねむ)る事能(あた)わざるは、五臓に傷(やぶ)れ損ずる所ある故(ゆえ)なり。その人終日思慮する所あって精神爰(ここ)に倚(よ)るをいう。かくのごときは則(すなわ)ち一身の病なり。然れども、人曽(かつ)て知らず故に臥し眠れども、神魂(しんこん)安からずして寝る事あたわざるなり。
(11)○凡(およ)そ壮年の者は気血盛んにして、その肌肉も滑らかに気道をよく通じ、栄衛(えいえ)の行いも、その常を失わざるが故に、昼は眼精(がんせい)盛んにして寝むらず、夜は即ち眠るものなり。又老人は気血ともに衰え、その肌肉枯れて気道渋りり、五臓の気相(きあい)搏(うち)て、その栄気も衰え少くして、衛気(えいき)内に代(かわ)るが故に、昼といえども眼精(がんせい)盛んならず、故に眠りを催(もよお)し、夜はかえって眠りがたきものなり。
(12)○人頭痛(ずつう)して夢見る事多く、或(ある)いは、夢に鬼形(きぎょう)の物を見る時は、鹿頭肉(ろくとうにく)を汁に煎じて服(ふく)し、又は鹿頭肉を煎熟(にじゅく)して食うもよろしきなり。鹿頭肉とは、鹿の頭の肉をいうなり。
(13)○人眠る事多きには、沙参(しゃじん)を煎じ服(ふく)してよろし、則(すなわ)ち、眠りを少なからしむ。又通草(あけび)を煎じて服するもよし。又茶・苦菜(にがな)・苦苣(くきょ)等いづれも服して眠りを少なからしむ。又草決明子(けつめいし)を久しく服すれば、人をして睡らざらしむ。
(14)○虚(きょ)し煩(わず)らいて、睡り苦しきに、小麦を煎りて服(ふく)すべし。
※虚=漢方では、精気や血液がなくなって、うつろになった様子。
(15)○林檎(りんご)を多く食すれば、人をして好(よ)く睡(ねむ)らしむるなり。また木槿(もくげ)を煎りて飲ものになし。これを服(ふく)するも人をして眠る事を得せしむ。又、烏梅(うばい)を茶のごとく煎じて飲めばよく眠らしむ。また、蕨を食するもよく眠らしむるといふ。
(16)○虚(きょ)を煩(わずら)いて眠りがたきは、若竹の葉を煎じて服(ふく)すべし。
(17)○又、胆(たん)虚(きょ)して眠らざるは寒(かん)なり。酸棗仁(さんそうにん)を煎り細末にして、竹の葉の煎じ汁にて調(ととの)え服(ふく)すべし。又、胆実(じつ)にして、夢見ること多きは熱(ねつ)なり。酸棗仁を生にて細末にして、生姜(しょうが)の汁に浸し、火にて炙りて、茶の煎湯(せんとう)にて調え服すべしと、海蔵(かいぞう)に見へたり。
※胆=肝臓のこと。
※酸棗仁=サネブトナツメの種子。漢方で収斂(しゅうれん)性の神経強壮・鎮静薬に用いる。
※海蔵=大蔵経のこと。
(18)○婦人夢に鬼形(きぎょう)の者と交合(こうごう)する事ある時は、雄黄(おおう)と安息香(あんそくこう)と等分に合わせ丸薬となし、焼いて臍(ほぞ)を薫(くん)ずべし。永(なが)く邪夢(じゃむ)を見る事を断(た)つなり。又、人虚(きょ)にして、訳もなき夢を多く見るには、人参(にんじん)・龍骨(りゅうこつ)等分に合わせて煎薬となし用(もち)うべし、と本草綱目に見へたり。
※雄黄(ゆうおう)=火山付近から産出する鉱石のこと。生薬として用いられる。
※安息香=インドネシアやタイに生えているアンソクコウノキの樹脂のこと。生薬として用いられる。
※龍骨=大型の哺乳動物の化石のこと。生薬として用いられる。
※本草綱目=中国、明代の代表的な本草学研究書。日本には慶長12年(1607)伝来した。
夢合長寿鑑絵抄終