表紙 > ウェブ古文書講座 > 明治時代の教科書『書牘』を読む > 質地証文


質地証文(明治時代の教科書『書牘』を読む)

土地を質に入れて金銭を借りる時の証文の例文です。借りた金額や質に入れる期間などの他に、質に入れた土地で小作することも証明しています。
参考:小作証文

教材(PDFファイル)

読み方

質地証文(しっちしょうもん)質主直小作(しちぬしじかこさく)
覚(おぼえ)
一(ひとつ)金何百円也(きんなんびゃくえんなり)
此質地(このしっち)何国何郡何村之内(なにこくなにぐんなにむらのうち)字何耕地(あざなにこうち)別紙地券之通(べっしちけんのとおり)拙者所持ニ而(せっしゃしょじにて)他ニ質入等(ほかにしちいれなど)致置申さす候(いたしおきもうさずそうろう)
右耕地(みぎこうち)今明治何年何月より(いまめいじなんねんなんがつより)来ル何年何月限(きたるなんねんなんがつかぎり)質物ニ差入(しちもつにさしいれ)書面之金子(しょめんのきんす)借用申所(しゃくようもうすところ)実正也(じっしょうなり)
然ル上は(しかるうえは)年期中(ねんきちゅう)拙者宜小作いたし(せっしゃよろしくこさくいたし)御年貢諸役(おねんぐしょやく)相勤申すへく候(あいつとめもうすべくそうろう)
若(もし)年期済ニ至り(ねんきずみにいたり)作得米(さくとくまい)・作得金(さくとくきん)並(ならびに)元金返済等(がんきんへんさいなど)相滞候ハヽ(あいとどこおりそうらわば)地券名前書替(ちけんなまえかきかえ)右地所相渡シ(みぎじしょあいわたし)申へく候(もうすべくそうろう)
尤(もっとも)其節ニ至り(そのせつにいたり)何方よりも(いずかたよりも)故障申出候者(こしょうもうしいでそうろうもの)一切これなく候(いっさいこれなくそうろう)
後日のため(ごじつのため)証書さし入候也(しょうしょさしいれそうろうなり)
質主 何某(なにがし)
証人 何某(なにがし)
何某(なにがし)
前書之通(ぜんしょのとおり)相違なきニ付(そういなきにつき)奥印いたし候也(おくいんいたしそうろうなり)
某国何郡何村(ぼうこくなにぐんなにむら)戸長(こちょう)
何某(なにがし)

言葉の意味

質地(しっち)金銭を貸借するために、担保として入れた土地のこと。
直小作(じきこさく)質入主が質に取られた相手から、質入れした土地を借りて小作し,その小作料を払うこと。
地券(ちけん)明治政府が土地所有者に交付した証券で、所有者・地目・地積・地価など記載されている。明治5年(1872)に制定されたが、同22年(1889)に土地台帳規則が制定されると廃止された。
作得(さくとく)小作人が地主へ払う物。小作米や小作金。
差入(さしいれ)提出すること。
奥印(おくいん)作成した書類の内容が正しいことを証明するために押す印。

読み下し

この質地何国何郡何村の内字何耕地、別紙地券の通り、拙者所持にて、他に質入れ等致し置き申さず候。
右耕地今明治何年何月より来たる何年何月限り、質物に差入れ、書面の金子借用申すところ実正なり。然る上は、年期中拙者よろしく小作いたし、御年貢諸役あい勤め申すべく候。もし年期済みに至り、作得[米金]並びに元金返済等あい滞り候わば、地券名前書替え、右地所あい渡し申すべく候。尤もその節に至り、何方よりも故障申出で候者一切これなく候、後日のため証書差入れ候なり。

【参考】類語と註解

※読解の参考にするため『書牘』の注釈書(参考書)『書牘 : 類語註解 日用文』から該当部分を抜き出しました。

・質物ニ差入(しちもつにさしいれ)【類語】質地とし抵当。

・書面之金子(しょめんのきんす)【類語】券額之金(けんがくのきん)

・年期中(ねんきちゅう)【類語】年限中(ねんげんちゅう)、定約中(じょうやくちゅう)

・年期済(ねんきずみ)【類語】満年限(まんねんげん)

・作得(さくとく)【類語】耕益(こうえき)

・返済(へんさい)【類語】完納(かんのう)

・名前(なまえ)【類語】名義(めいぎ)

・相渡(あいわたす)【類語】交付(こうふ)

・其節(そのせつ)【類語】其期(そのご)

・何方(いずかた)【類語】他(た)