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取引約定証文(明治時代の教科書『書牘』を読む)

商取引の約定証文の例文です。手付金を支払ったこと、全額支払ったら品物を引き渡してほしいこと、期限までに全額を払えなかったら、他人に売ってしまっても構わないことなどが記されています。

教材(PDFファイル)

読み方

取引約定証文(とりひきやくじょうしょうもん)
覚(おぼえ)
今度(このたび)何品(なにしな)幾包(いくほう)幾箱(いくはこ)何貫何拾目ニ付(なんかんなんじゅうめにつき)何拾円替之相場ヲ以(なんじゅうえんがえのそうばをもって)貴殿より買入の約定いたし(きてんよりかいいれのやくじょういたし)其手附金として(そのてつけきんとして)何円相渡(なんえんあいわたし)申候(もうしそうろう)
全金之儀者(ぜんきんのぎは)来ル何日まてに持参(きたるなんにちまでにじさん)品物に引換(しなものにひきかえ)相渡し(あいわたし)申へく候(もうすべくそうろう)
若シ(もし)右日限ヲ越え(みぎにちげんをこえ)候ハヽ(そうらわば)手附金者(てつけきんは)流と相成(ながれとあいなり)品物勝手ニ(しなものかってに)他に御売捌(ほかにおうりさばき)成され候共(なされそうろうとも)一切故障之儀(いっさいこしょうのぎ)申出間敷候(もうしいでまじくそうろう)
後日のため(ごじつのため)約定証書(やくじょうしょうしょ)さし入候也(さしいれそうろうなり) 買主(かいぬし)何某(なにがし) 何某殿(なにがしどの)

言葉の意味

何品(なにしな)品物の名称を指す。
貫・目(かん・め)重さの単位。目は匁(もんめ)のこと。
替えの(かえの)相当の。
約定(やくじょう)契約すること。
全金(ぜんきん)全額のこと。
流(ながれ)返却しないこと。
故障(こしょう)異論を言うこと。

読み下し

今度、何品幾[包・箱]何貫何拾目のに付き、何拾円替えの相場を以て、貴殿より買い入れの約定いたし、その手付金として何円あい渡し申し候。全金の儀は、来たる何日までに持参、品物に引き換えあい渡し申すべく候。もし右日限を越え候わば、手付金は流れとあいなり、品物勝手に他に御売り捌きなされ候共、一切故障の儀申し出で間敷(まじく)候。後日のため、約定証書差し入れ候なり。

【参考】類語と註解

※読解の参考にするため『書牘』の注釈書(参考書)『書牘 : 類語註解 日用文』から該当部分を抜き出しました。

・取引(とりひき)【類語】売買(ばいばい)

・今度(こんど)【類語】今回(こんかい)・方今(ほうこん)

・何拾円替(なんじゅうえんがえ)【類語】何拾円相当(なんじゅうえんそうとう)

・相場(そうば)【類語】時価(じか)

・買入(かいいれ)【類語】買賖(ばいよ)※代金を後払いにして品物をやりとりすること。音読みは「ばいしゃ」が正しい。

・其手附金(そのてつけきん)【類語】其契約金(そのけいやくきん)

・相渡(あいわたし)【類語】交付(こうふ)

・全金(ぜんきん)【類語】全額之金円(ぜんがくのきんえん)

・持参(じさん)【類語】携帯(けいたい)

・引換(ひきかえ)【類語】交換(こうかん)

・相渡(あいわたし)【類語】交付(こうふ)

・日限(にちげん)【類語】期限(きげん)

・勝手(かって)【類語】自由(じゆう)

・売捌(うりさばき)【類語】販売(はんばい)

・一切故障(いっさいこしょう)【類語】毛頭異論(もうとういろん)

・約定証書【類語】売買契約証書(ばいばいけいやくしょ)

・流れと相成(あいなり)【註解】無関係ト見俲(みな)し返却致さず。